「なぁ、もう帰るん?」
逢坂琉人(おうさかりゅうと)は寝乱れたベッドに腹ばいになって、すりガラスの向こうでシャワーを
浴びている日下部樹(くさかべいつき)に声をかける。
「まだええやん」
「いや、今日は時間がないさかい」

シャワーを浴びた樹は、腰にバスタオルをまいただけの姿で出てくる。
歳は琉人より14歳も上だが、実際の年齢よりもずっと若く見える。週に2回はジムで鍛えている
長身でバランスのとれた体は、いつでも琉人の劣情を刺激する。

「つまらんなぁ。1ヶ月ぶりの逢瀬やていうのに」
「充分堪能したやろ」
髪の水気をとり、メガネをかけて素早くスーツ姿になった樹は、お堅い税理士の顔へと戻っている。
「琉人も早よ着たらどうや」
「う…ん」

生返事で立ち上がり、部屋を出ようとする樹に追いつく。
全裸の琉人もまた長身で、均整のとれた体つきをしている。
「なぁ、次はいつ?」
「また連絡するし」
「1ヶ月も放ったらかしにしたら、アカンで」
「わかってるて」

頷く樹を、琉人は正面からきつく抱きしめる。上等のスーツだが、かまうことなくくしゃくしゃに抱く。
それからキス。すぐに舌を差しいれて、抜けるほど強く吸ってやる。

「なぁ、服の上から樹の乳首を当てたら、も1回ええ?」
「アホ。なに言うて…」
言い終わらないうちに、琉人は樹の右胸にかみつく。ここが右の乳首だ。もう4年もつき合って
いるから、すぐにわかる。

「ほら、当たり、やろ。…なぁ、俺また起ってきてん」
「琉人、ホンマに時間ないねん」
「延長料金は俺が払うさかい。あぁ、もう、こんなや」

琉人は樹の手をとると、自分の股間に導く。
そこには、先刻の2度の放出を感じさせない、琉人自身が頭をもたげている。
「これイッパツ抜いてくれてら、1ヶ月も放っとかれたことチャラにしたる。なぁ」
「…しゃあないな」

樹は軽く吐息をつくと、琉人を壁ぎわに立たせ、自分はその足下に膝まづく。
「ん…」
脚を開き、裸の背中を壁につけて、琉人は樹の口での奉仕を受けやすい体勢をとる。

「あ、そこ…」
口に含んだとたん、本気の愛撫が始まる。
本当に時間がないのだろう。最初から琉人の弱いところをついてくる。早く終わらせて
早く帰ろうという魂胆が見え見えの愛撫に、なるだけ時間をかけてやろうと、琉人は話をする。

「やっぱり樹はお口が上手やな。こないだ拾った坊やは、ゼンゼンやった」
チラリと樹は琉人を見上げる。
「せや。若い子、拾た。ハタチて言うたてけど、まだ高校生やな」
樹は非難めいた目で、もう一度琉人を見上げる。が、舌は休むことなく琉人自身を這う。

「あ…」
キュッと琉人の内股に緊張がはしる。ひとりでに腰がうねりだす。
「け、けっこうカワイイ坊やで、アレの相性かてナカナカ…」
話していれば気がまぎれて、それだけお楽しみの時間も長引く。

琉人には樹という4年ごしの恋人がいながら、他の男と遊ぶのをやめない。
琉人ほどの美丈夫だと、モテないわけはない。そして、さしたる罪悪感もなく、琉人はそれに
応じている。

が、樹は琉人の浮気を黙認している。チョウチョのように気の多い恋人とつき合っているの
だからとあきらめているのか、それとも妬くほど想っていないのか、琉人にはわからない。
ともあれ、琉人は樹とのくっつき過ぎず離れ過ぎない今の関係が気にいっている。
そのうえ樹とは体の相性もいいらしく、いくら夜を重ねても飽きることはない。

「も、もう、アカン。もっと、吸うて」
きれいに梳いた樹の髪をグシャグシャにつぶして、琉人は頭を押さえこむ。
「ん、あ、あ」
樹の頭を固定しておいて、熱くぬめった口腔に自分自身を打ちつける。

太く硬い琉人に気道までふさがれて、樹はしきりにえずいているようだが、琉人は気にせず
おのれの快感のみを追求する。
「お、イ、イク、出る、ホンマ、あ、ああっ」
射精の瞬間、ギュッと体を固くして、樹のノドの奥に何度も何度も射出する。

「ん…んん」
大量に射出された体液を飲み下した樹は、尿道に残っている分もすべて吸い取ってくれる。

「ハァ、ハァ…」
ようやく琉人自身から解放された樹は、肩で息をしている。
琉人もしゃがみこみ、樹のメガネをはずして目尻ににじんだ涙を吸って、ついでに唇も吸う。
「おおきに。気持ちヨカッタわ」
「そうか。…ちょお、口ゆすいでくる」
「そうしい。なんや生臭いし」
「おまえのせいや」

樹は立ち上がり、もう一度洗面所に入る。
「ホンマ、おかげでスッキリしたわ」
その辺りに脱いだままになっていた海色のビキニパンツを、琉人は足の指でつまんで拾いあげる。
「明日から4月やしな。腰も軽なって、助かったわ」
「さよか」

すっかり身だしなみを整えた樹が、小さく頷く。
「ほな。また連絡するし」
「メールやったら、確実やで」
「ああ。ほな」
チュッ。鼻の頭に軽く口づけて、笑顔で送り出す。
自分さえ満足すれば、あっけないほど淡泊になる琉人だった。




  2011.09.03(土)


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